夏の始め

私が絵本作家になったきっかけは、コンクールへの出品でした。実際に賞をとるまでの紆余曲折など、手探りで応募した当時の体験記です。

アマチュアが出版するための手段

どうすれば絵本って出版できるんだろう?
私が「絵本を出版してみたい」と思った時、まず抱いた疑問でした。

絵本の写真

2014年当時、ネットで調べると絵本を出版するには大きく二つの手段がありました。(自費出版を除く)

  1. 出版社に作品を持ち込む
  2. 絵本のコンクールに応募する

何のつてもない私には、出版社に出向いて『多忙な編集者さんに作品を見てもらう』という手段は現実的では無いように思えました。郵送で受け付けてくれる出版社もあるようですが、返事をいただけるかどうかの保証はありません。

そもそも、絵本作りは初めてです。自分で作品を作ったとして、それがどの程度のレベルにあるのか分かりません。
ならば力試しとして、まずは白黒はっきりと決着のつく コンクールに応募しよう、と決意しました。

コンクールを選ぶ

絵本のコンクールには、年間を通して様々なものがあります。

その中で私にとって応募の条件は、副賞として 絵本の出版が約束されること でした。賞金はもちろん貴重ですが、なんといっても出版(=デビュー)が目的です。
そして コンクールとして規模が大きく、確かな実績がある こと。力試しであるならば、登竜門と呼ばれるようなものが相応しいと思いました。

すると、コンクールは次の二つに絞られました。

  • 講談社絵本新人賞
  • 日産童話と絵本のグランプリ

何だか、名前だけでも迫力がありますね。。

最初に応募したのは

私の場合、まず照準を合わせたのは講談社です。
理由は単純。

挑戦を思い立って制作を始めるにあたって、〆切までの期間がちょうど良い と思えたから。

その時、2014年暮れ。講談社の応募受付期間は2015年5月でした(ちなみに、日産の受付は10月)。
約半年の準備期間が、体力・気力的にベストだと思えたのです。

講談社はサービス精神がすごい!

講談社は絵本新人賞の専用サイトがすごい のです。
初めてコンクールに挑戦するにあたって、丁寧に応募方法を説明してくれるこのサイトは、とても安心感がありました。

講談社絵本新人賞サイト
講談社絵本新人賞専用サイト。夢があります!

①専用ページがあって過去の受賞作家の制作日記が読める。

過去の受賞作家さんが、受賞から出版までの過程を講談社のサイト上で制作日記として公表してくれます。受賞すると『担当編集者さんがついて、受賞作の出版までに描き直し&ブラッシュアップをする』と、知りました。

『担当編集者さん!』『打ち合わせ!』『色校正!』『デザイナーさん!』『印刷屋さん!』

もうそれらの言葉だけで、私の夢はぐんぐん膨らんでいったのです。

②選考経過をサイト上でつまびらかに報告してくれる

これはすごい。
最終結果のみならず、そこに至るまでの第一次選考結果、第二次選考結果をサイト上で報告してくれるのです。

応募者は中間報告の時点で、自分が選考に残っているか否か知ることができます。想像するだけで緊張します。一定の期間ごとに更新されていく選考状況。それを共に見守ることができるなんて!

講談社へ応募。そして結果は?

2015年5月。私は何とか無事に作品を仕上げ、講談社へ応募することができました。

初めて作った絵本作品。応募するときには助手席に乗せ、シートベルトまでかけて郵便局へ持ち込んだ大切な作品。毎日どきどきしながらサイトの更新を待ちました。

そして7月。毎年恒例の七夕飾りをあつらえた頃でした。
ふとサイトをチェックすると、待ちに待った第一次選考の結果が!

ずらりと並ぶ通過者の名前。
私は食い入るようにスマホの画面を追っていきました。

けれど、、…ない。

そこに私の名前はありませんでした。

実はこれ、そうとうショックでした。
初めての応募で、しかも初めての作品で『ショック』なんて言ったら図々しいのは百も承知です。けれど全身全霊で作ったものが箸にも棒にも掛からぬというのは、どうにも受け入れがたいものでした。一次は通るだろう、なんて密かに甘い期待をしていたのです。

『講談社に選ばれますように』

七夕飾りの短冊が、なんとも虚しく風に揺れていました。

途方に暮れるなかで

そのとき自分の中で敗因がはっきり分かっていれば、あれほど戸惑わなかったと思います。

コンクールというものは、結果をはっきり出しますが、落選の原因を教えてはくれません。

何がどれくらい足りなかったんだろう?

絵本塾に通った経験はなく、アドバイスをもらえる相手がいませんでした。私は途方に暮れました。
やはり、専門家に教えてもらわなきゃだめなんだろうか?

参加できそうな絵本塾も探してみました。が、当時まだ子供が小さかった私に通える講座は限られていました。有名な絵本塾はたいてい遠く、夜間で、高額でした。

板橋区立美術館・夏の教室

初夏のころ

さて、講談社に落選してから約1か月後。

「何か行動を起こさねば」と決意し、
私は板橋区立美術館の 絵本をテーマにした講座 に参加してみることにしました。2日間にわたり、著名な5人の先生方による多彩なお話を聞くことができるのです。

初日講座後のことです。
帰宅するためにバス停に並んでいると、その日の講師 三宅興子先生(梅花女子大学名誉教授)が隣にみえました。先生は大きな荷物を携えて、「今日中に大阪へ戻りたいのだけど、新幹線の駅まで行くには…?」と、困った様子で私にお尋ねになったのです。

三宅先生は、とても気さくな方でした。そのままバスの中で20分ほどご一緒する間、講談社で落選した絵本のダミーを見て下さったのです。(講座の受講生には絵本作家を目指す方も多く、自作のダミーを持参してチャンスがあれば休憩時間などに見てもらっていました)

ダミー表紙
持ち歩いていたダミー(模擬絵本)。サイズは小さめです。
ダミー中身
中を開くとこんな感じ。自宅プリンターで印刷したものを貼り合わせて作りました。

ダミーをご覧になった後、先生はおっしゃいました。
「これは、コンクールの選び方を間違ったわ。講談社は雰囲気が違う。日産に応募してみたらどう?コンクールにもそれぞれ傾向があるのよ。」(←先生の関西言葉を上手に再現できないので要旨のみ)

今まで途方に暮れていた私に、一つの道筋が浮かび上がってきました。

もしかしたら作品がダメなんじゃなくて、応募先が違ったのかもしれない。例えば『一生懸命に仕上げた真冬のコートを、真夏のドレスコンクールに応募しちゃった』というように…(?)

新しい可能性

帰宅した私は、日産の応募要項を眺めます。

ーよくある質問ー

Q. 他のコンテストに応募した作品を、手直しして応募できますか?
A. 他のコンテストで入賞されていない限り、ご応募いただけます。

…わたし、入賞していない。
なんなら、一次選考さえ通過していない!

運って不思議なものですね。箸にも棒にも掛からなかったからこそ、再チャンスの可能性が浮上してきたのです。もし『佳作』など、惜しいところまで入賞していたらこの機会は無かったでしょう。

何度読んでも規則違反にはならないようだし、幸いなことに日産はサイズが自由。講談社から戻ってきた作品を、ほぼそのまま応募することができるようです。

それでも迷う

…それでも、やっぱり迷うのです。

一度、箸にも棒にも掛からなかった作品は、返却されてしばらく部屋の隅に置いておくうちに、なんだか価値のないつまらないものに思えてきました。
人の心っておかしなものですね。あんなに大切な作品だったはずなのに。

日産の応募期間は10月。三宅先生とお会いしてから2か月近くが経っていました。もう私は応募するのが無駄なように感じていました。すっかり自信を無くしていたのです。

そんな私に、旦那が発破をかけました。
「何言ってんの、もったいない。そのまま応募できるんでしょ?一生懸命つくったのに。応募するだけ応募しなよ。」

うーーーーーん、そうかなぁ。

私は、のそのそと準備をして発送しました。
そしてそのまま、心の蓋を閉じました。
もう、期待して待ちたくない。
七夕飾りがきらきら揺れていた、あの日みたいな思いはしたくない。

2015年、季節は秋から冬へと静かに移っていきました。

日産グランプリ大賞受賞

そして、クリスマスイブの朝。
グランプリ受賞の連絡は、あまりにも唐突にやってきました。(詳しくはこちら→日産童話と絵本のグランプリの受賞連絡が入った時

本当にわからないものです。あのとき、講談社に落選して、三宅先生にお会いして、旦那に発破をかけられて、今があります。

そう、
講談社の一次審査で落選したのも、日産で大賞をいただいたのも、全く同じ作品『ちかしつのなかで』なのです。

コンクールは無情にも “水物” です。様々な要因が影響しあって、結果が確定します。ひとつのコンクールで結果が思うように出なかったとしても、作品を全否定する必要などないのかもしれません。

しかし、自分の作品を冷静に判断するのは難しい。評価されれば上出来の作品だと思えるし、評価されなければ駄作だと思い込みます。怖いことです。

けれど当然ながら、応募しなければ入賞はありません。

言い古された言葉ですがやはり、蒔かない種は芽を出さないのです。「自信がない」は、ひとまず脇に置いて種を蒔く。
これが同じ作品で落選と入賞を体験した、私の心からの実感です。

私は決して、どちらのコンクールが優れているとか、正しいとか言いたいのではありません。それぞれに傾向があります。もちろん傾向の違いをいくら分析したとしても、はっきりとした線引きは不可能です。審査員が入れ替われば、傾向が変わることもあるでしょう。さらに言えば、他を圧倒するような素晴らしい作品だったら結局、どのコンクールに応募したって賞をとるのかもしれません。

それらを踏まえたうえで、私が感じた大まかな傾向を以下にお書きします。

両コンクールの傾向

あくまで個人的な感想です。どうぞご参考までに。

講談社絵本新人賞
小さな子供でも親しみやすく、インパクトの強いもの。明るく元気なもの。
日産童話と絵本のグランプリ大賞
大人の鑑賞も想定した、味わいのあるもの。叙情的なもの。(日産は童話部門と絵本部門が分かれているので、絵本部門は絵を重視するかもしれません。実際、授賞式時にお会いした審査員の先生が、「まず僕は、並べてあるすべての作品の『絵』を見る」とおっしゃっていたように記憶しています)

コメント

私は 文芸社に落選し その後絵本出版.com で2回第二次審査に残りましたが、「自費出版をしないか?」という話だけで終わりました。私としては出版化されたかったので、現在手作り絵本を作っています。気に入ってもらえる先生がどこかにいるかもしれないと希望がわきました。ありがとうございました。

梅田様
コメント、ありがとうございます。
せっかくコメントをいただいていたのに、気づくのが大変遅くなって申し訳ありません。

私は何冊か出版経験を経た今でも、本当に作品に対する評価は人それぞれだと痛感しております。
梅田様の作品も、きっとどこかでまた違う評価が得られる機会があるのではないでしょうか。
2回第二次審査に残っているというのも、何か心に響く力が作品に宿っていた証だと思います。
ご健闘をお祈り申し上げます。制作を続けていれば、きっと何かが起きると思います!
ありがとうございました。

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