透明水彩は美しい絵の具ですが、使い方を誤ると絵があっという間に濁ります。透明だからこそ です。
例えば、「赤い厚紙」の上に「緑の厚紙」を重ねて置けば、目に映るのは緑の紙のみ。でも「赤いセロファン紙」の上に「緑のセロファン紙」を重ねた場合はどうでしょう?
暗く濁った色になります。
透明水彩はセロファン紙のようなもの。下の色が透けて見えるのです。
それゆえに、「描いているうちに色が沈む」「思ったとおりの色が出せない」と悩む方が多いのでしょう。
そんな時、強い味方となってくれるのが 色見本 (いろみほん)なのです。
色見本ってどんなもの?
前回のブログでは、透明水彩パレットの作り方について書きました。
パレットが完成したら、絵を描き始める前にぜひ色見本を作ってください。
色見本とは、絵の具の 試し塗り一覧表 のようなもの。パレットに充填したすべての色を、並べて塗ったカードです。
…ややこしいですね。
百聞は一見に如かず。
こんなものです↓
作り方は人それぞれ。絵画教室15年来の生徒さん・S様が作って下さったのは、ウインザー&ニュートンの絵の具・43色がずらりと並んだ、長ーーーい色見本です↓
見た目もなかなか魅力的な色見本ですが、実はとっても役にたつのです。
「どんなふうに役に立つの?自分で作れるの?」
あまり見かける機会がないですものね。当然の疑問です。
ではこれから、詳しく説明していきましょう。
なぜ色見本が必要なのか?
ひとつ、例をあげます。
これは私が普段使っているパレット、黄色コーナーの一部です。両端は良いとして、真ん中の二つはやけに色が暗いですね。カレーパンあたりを描くのにぴったりな気もします。
でもね、実際に塗ってみると、案外明るいのです。色見本で確認します。
特に上部(水で多く薄めた方)は、ほとんど明度差がありません。
実は『透明水彩』と一言に言っても、各色それぞれ透明度が異なります。より透明度が高い絵の具は、塗る前は暗く見えても 水で伸ばすと輝くように明るく発色する のです。
二つの画像を並べてみましょう。
見た目と全然ちがうじゃーん!って思いませんか?
また逆に、『似たように見える色』を正確に見分けるのだって大変です。
例えば、こんなのや…↓
こんなの。↓
これらを塗った時の色の違いを、瞬時に正しく把握することはできますか?
私は無理です。
色名を読んでようやくイメージできる程度です。
パレットに並んでいる絵の具を見ただけでは、塗った時の色を認識するのはとても難しい のです。
そして、「思ったような色が出せない」と嘆く方ほど、お手持ちのパレットの色を正確に把握しないまま、『なんとなく』色を選んでいるような気がします。
まずは 正しく色を認識すること。これが、上達の一番の近道だと思います。
ちなみに、画材屋さんの絵の具コーナーやパンフレット、絵の具メーカーのサイトにも、絵の具の色が見本として掲載されていることがあります。ただ、印刷やモニターでは正確な色はつかめません。あくまでも参考程度にしかならないのです。
ご自身で色見本を作ることの重要性、ご共感いただけましたでしょうか。
それでは実際の作り方を説明していきます。
色見本の作り方
|準備するもの
- 水彩紙 10㎝程度×30㎝程度
- 黒の油性マジック、または水性顔料マジック(水に溶けないもの)
- 定規
使用する水彩紙は、普段ご自身が絵の制作に使うものがベストです。紙によって発色が変わるので、より正確な色を認識するためです。
高価なスケッチブックから水彩紙を一枚犠牲にするのは勇気が要りますが、ご心配なく。色見本にはそれだけの価値があります。
その他、筆、バケツ、雑巾、鉛筆、消しゴム などもご用意ください。
もちろん 絵の具パレット も!
|制作の手順
① まずは、水彩紙に黒線を引きましょう。それぞれの絵の具が黒線を「どれだけ被膜するか」によって、透明度の違いを確認できます。(何のことやら…?と思われる方も、一応引いておいてください。いずれ役に立つと思います)
② 次に、鉛筆やシャープペンシルで約1㎝毎に目盛りを入れておきましょう。
(画像はシャープペンシルの線が薄すぎて見えづらいですが、、目を凝らして見てください!)
③ 目盛りを目安にして、パレットの順番通りに色名を入れていきます。
④ 水で湿らせた筆で絵の具を溶きます。他の色が混ざらないように。
このとき必ず混色スペースで馴染ませ、濃度を調節してください。
⑤ 黒線を覆うように半分ほど塗り…、
⑥ 残り半分は、更に水で薄めて塗ります。
薄める際、水分が多すぎると左半分(濃い方)へ水が逆流します。雑巾などで水分調節してください。
― より高度な技術をお求めの方に ―
【 ぼかし方のコツ 】
仮に、最初に塗った左半分の水分量を「1」とすると、後から薄める時に筆に含ませる水分量は「0.5以下」くらいが適当です。
水は多い方から少ない方へ流れるので、薄める時の水の勢いが強いと、逆流して滑らかなグラデーションがつくれません。( バックランと呼ばれる、シミのような段差ができます。)
少しややこしいですが、混色スペース上で 絵の具の濃度(%)自体は水で薄めても、筆はそのまま使わずに、雑巾等で水分調節してから使いましょう。
⑦ 全色塗り終えて完成!
全体的な注意事項としては、とにかく 色が混ざらないように 気を付けること。
色見本の色が不正確では、元も子もありません。
一色ごとに筆をよく洗い、バケツの水もこまめに取り換えることをおすすめします。
⑧ ラミネート加工(お好みで)
この過程は、完全に趣味の範疇です。私は好きなのでラミネートして遊びますが、ここまでしなくても十分です。ただし、水彩画を描くときは水がはねて滲むことがよくあるので、ラミネートしておくと安心です。
|完成したら
出来上がった色見本を少し眺めてみましょう。いろいろな発見があります。
例えばビリジャンヒュー。お隣のコバルトグリーンとは明度が全く違うように見えますが↓
ブログ冒頭のカレーパン(?)黄色の例と同様、それほど明度が変わらないことがわかりました。
つまり、ビリジャンヒューはとても透明度が高いのです。(よく見るとコバルトグリーンは黒線をだいぶ被膜しています)
例えば、絵全体に薄く緑色をかけたいとき、不透明なコバルトグリーンでは重たくなりますが、ビリジャンヒューなら軽やかに仕上がります。
また、人物の肌を描くとき。
多くの方は「なんとなく」ジョーンブリヤンを選択しがちですが、色見本を確認すると、水で薄めた(赤点線内の部分)他の色のなかにはジョーンブリヤン以外にも使えそうな色が沢山ありますね。
表現の幅がぐっと広がりそうです。
色見本で確認できるからこそ「目的に応じて色を選べる」ようになるのです。
まとめ
色は、本当に奥深いです。
とても奥深くて、今回ここですべて説明するのは不可能です。それでもまずは、正しくそれぞれの色を認識することが第一歩だと思うのです。
そのために、どうぞ色見本をお役立てください。
私もまだまだ模索中。そしてこの探求は、きっと生涯続くことでしょう。